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New York University Abu Dhabi にてレクチャーとワークショップを提供しました。(2025年10月27日—月)

revised: 2025 / 12 / 09

INFORMATION

UAE(アラブ首長国連邦)の首都,アブダビにキャンパスをおく,NYU(ニューヨーク大学)アブダビ校にて
「SOULFULL INNOVATION: HOW IKIGAI INSPIRES THE FUTURE OF MAKING」
と題したトーク,および学生対象のメイカソンのプログラムを提供しました.

- TALK -
2025/10/27(月) 18:00 -19:30
at NYU Abu Dhabi Auditorium

- MAKEATHON -
2025/10/28(火)- 29(水)
at NYU Abu Dhabi

10/27(月)の 18:00 からファウンダーの濱中によるトーク,それを受けてのパネル・ディスカッションではディレクターの林も加わり,現地の有識者と意見交換の機会を持ちました.
タイトルは「Soulful Innovation: How Ikigai Inspires the Future of Making (ソウルフル・イノベーション:いかに「生きがい」が未来の「ものづくり」を触発するか)」というもので,現代社会におけるイノベーションが往々にして技術や経済合理性に偏りがちな中で,日本の哲学である「生きがい(Ikigai)」を,未来の「ものづくり (Making)」や「イノベーション」の核に据えるという,極めて示唆に富んだテーマが設定されていました.



トーク

トークではファウンダーの濱中がファブラボ品川やICTリハビリテーション研究会の活動を通して進めているオープンソースプラットフォーム「COCRE HUB」でのデータ共有やインクルーシブ・メイカソン,企業との連携・協業について伝えつつ,「いきがい」と〈作業〉の関連について考えるところをお伝えしました.
大学のオーディトリアムに集まった300名を超えるオーディエンスは終始熱心に聞き入り,レクチャー後の質問をきっかけにパネル・ディスカッションに進みました.


パネル・ディスカッション

パネル・ディスカッションではディレクターの林も加わり,作業療法士の視点からUAEで活躍する様々な分野の教育関係者と意見を交換しました.

聴衆の反響は主に以下の3つの側面に集約されそうです.

実用的な「適用性」への評価: 「生きがい」という概念を,AI時代における起業家精神やプロダクト開発のための「羅針盤」として再構築した点が高く評価されました.聴衆は,レクチャーを「単なる抽象論ではなく,非常に実用的だった」と捉え,「Soulful Innovation」を次世代のパーパス経営の核心を突く概念として認識しました.

「人間性」と「持続可能性」への共感: 技術至上主義へのアンチテーゼとして,「効率や市場規模ではなく,人間的な充足感をイノベーションの目的とする」という視点に深い共感が集まりました.社会貢献を「義務」ではなく「生きがいという内発的な喜び」に結びつけるアプローチは,真に持続可能な未来へのヒントとして受け止められました.

個人的な「内省」を促す力: レクチャーは,自身の多忙な日常やキャリアを振り返り,「なぜ私は仕事をしているのか?」を深く問い直す,学術的な深さを持つ内省の時間となりました.聴衆からは,レクチャー後に自身のプロジェクトの「生きがいマップ」を作成したという声も聞かれるなど,聴講者の行動変容を促す強い力を持っていたことが伺えます.

また、UAEのデザイン教育関係者からは同様の取り組みを学生たちと模索してきており,日本を基点にした社会実装の例を知れたことの喜びを伝えていただきました.



質疑応答

聴衆から多くの問いが投げかけられ,パネル・ディスカッションのメンバーを交えて予定時間を超えて意見交換がなされました.質問のなかには日本では何歳くらいに「いきがい」について学ぶのか?といった問いかけもあり,現地での関心の高さを窺わせました.私たちは「いきがい」について学校で学ぶ経験というのはなく,暮らしの中で体得していくようにイメージしていますが,「いきがい」と〈作業〉の関わりについては常日頃考えることもあります.そのあたりのニュアンスが言語のハードルがある中でうまく伝わったかどうか.回答後の反応をみる限りでは一定の理解はしていただけたようでした.
また,質問のなかには AI をどう捉えるか,といったものもあり「AI か人か」ではなく,AI と人の関わりをコラボレーションとして捉える視点を重視したいと回答しました.
また,終了後にも多くの聴衆が質問に来られ,そのなかには南アジアに伝わる「Jugaad(ジュガール)」という思想を知っているか?という問いかけがありました.改めて調べたところでは,限られた資源の中で知恵と工夫を凝らし,独創的かつ即席で問題を解決するインド発祥の精神や方法を指し,「ハック」「創造的やりくり」に近い意味で,ビジネスにおけるイノベーション手法としても注目されているようです.
私たちの取り組みにとても近い視点に思われ,思わぬ新しい学びも得られた非常に意義深いものとなりました.

改めてまとめるとこのトークは,理論的な深さと実践的な適用性の両面から聴衆の知的好奇心を刺激しました.特に,ビジネスリーダーや学生からは,単なる東洋哲学の紹介に留まらず,現代の課題を解決する具体的な羅針盤としての価値が高く評価されました.



オーガナイザーのみなさん

この機会は下にご紹介する2人の友人たちの大きな尽力によるものです.
もともと欧米諸国をはじめとする海外ではFRANCESC GARCIA, HECTOR/MIRALLESの共著で記されたスペイン語の著作「IKIGAI」により,生きがいについての考え方が知られるようになったようです。特にアントレプレナー教育として成長のみにフォーカスした生き方に疲弊することが多くなったUAE国内の状況への打開策として持ち出されている側面が大きいようです.Evelyn女史は日本への留学経験もあり,日本文化への造詣も深く,より的確に価値を伝えることができているようで,UAEにおける「生きがいマスター」と位置付けられているようでした.

私たちの活動で特長的なのは単に「生きがい」という言葉に象徴される活動を通して一息つく,といったことだけではなく,創造的なプロセスに新たな視点を持ち込もうとしているところかと思います.
今後も彼女たちとのコラボレーションが続くと思うので,展開を楽しみにしています.

左:Monotsukuri Lab を共同主宰する Evelyn Giraldo 女史.日本への留学経験もあり,UAEで活躍する多くのアントレプレナーたちのメンターを務める.
右:同じく Monotsukuri Lab の共同主宰者でNYUAD の Advanced Manufacturing Workshop 責任者を務める Jorge Montalvo 氏.


メイカソンの開催

トークの翌日から2日間にわたって NYUAD の学生を対象にメイカソンのプログラムを提供しました.


レクチャーおよびインタビュー

メイカソン初日のはじめに昨日のトークのおさらいから.今回のトークとメイカソンの根底に流れる考え方について改めて毎日忙しく暮らす学生たちとコンセンサスを取りました.
前日のトークをきっかけにニードノウアに名乗りを上げてくださる方がいたのが非常に心強く,結局プレゼンテーションまで出席いただき,学生たちにとっても貴重な経験になったと思います.


アイディエーション/プロトタイピング

レクチャーなどのインプットおよびニードノウアのインタビューを経て,アイデエーション以降のプロセスはラボに場所を移して行うことになりました.


プロトタイピング

プロトタイピングは引き続き,学生たちが好きな時間に利用できる Advanced Manufacturing Workshop にて進められました.たくさんの講義の合間を縫って学生が訪れてはスタッフと打ち合わせしてまた授業に戻る,といったことを繰り返しつつ徐々に形にしていきました.
はじめは形になるかなと心配していましたが,2日目の午後に向けて要領よく仕上がっていきポテンシャルの高さを感じました.


プレゼンテーション

2日目の午後にはもうプレゼンテーション.いつの間に資料を用意したのかという完成度のプレゼンテーションが繰り広げられました.普段からピッチ慣れ?しているのかいずれのチームもスムーズなプレゼンテーションでさすがでした.


驚いたことに来年ドバイで開催される世界的なテック系イベント GITEX GLOBAL 2026 で商品開発に向けてのピッチイベントに参加する権利が得られることが伝えられました.


Advanced Manufacturing Workshop NYU Abu Dhabi

学内にこれだけのファブスペースが当たり前にあること.学科を問わず様々な学生たちが出入りし,ものづくりに取り組み,それをしっかり雇用された専任スタッフがしっかり支えるという仕組みが機能しています.日本国内の大学でファブスペースとそれを支える方々の役割がどの程度きちんと評価されているか把握しきれていませんが,圧倒的に価値のある人材として評価し,それにみあった待遇を保証すべきだという思いは以前から変わりません.ただ機材が使えるだけの存在ではないということをしっかり評価すべきでしょう.